「リンク」だけでも名誉毀損が成立

2chに貼られたURLリンクによって自身の名誉を傷つけられたとして、 東京都内の男性がプロバイダー(インターネット接続業者)に対して、発信者情報の開示を求めた裁判。 リンクを貼るだけでは名誉毀損にはあたらないとの見解が示された一審に対して、控訴審では一転、原告男性の訴えが認められました。


事件の概要

既存の中傷記事のURL、貼ったら同罪?

事件は、原告男性が2ちゃんねる内のある団体関係スレッドの中に、 既存スレッド「●●(職業と実名)とセクハラ」のタイトルとスレッドのURLを貼りつけたものを見つけたことに始まります。

リンク先のURL内には、男性が学生時代に女性に対してセクハラをしたとする内容が書き込まれていました。

原告男性は2011年12月、この行為が名誉毀損にあたると主張し、 プロバイダーを相手どって発信者情報(氏名または名称、住所、メールアドレス)の開示を求める裁判を東京地裁に起こします。


裁判の経緯

「リンクは名誉毀損に当たらない」、一審棄却

原告の訴えに対し、東京地裁の植垣勝裕裁判長は、掲示板にURLを書き込んだだけでは名誉毀損には当たらないという判決を下します。

民法第723号の「名誉毀損行為」を行ったとみなすためには、「他人の社会的評価を低下させるような事実の流布をした」という法的評価が必要になります。

英数字の羅列に過ぎないウェブページのリンクを貼ることがこの「事実の流布」に相当するのか、 名誉毀損を訴えるべきはリンク先ページの開設者ではないかなどの観点から、リンクを貼った者が名誉毀損に問われるのは不当としたと思われます。

逆転の二審

これを不服として原告男性は控訴します。

一審判決に紐づき、プロバイダー側が主張した内容は以下の通りです。

▼リンクが名誉毀損に該当しないとする理由▼

(1)スレッドのタイトルとURLを書き込んだ人は、そのスレッドの存在を示すために書き込みをしたに過ぎない
(2)書き込みには、原告男性がセクハラを行ったとの事実は示されていない
(3)従って、書き込みで原告男性の社会的評価が低下するものではないので、名誉毀損には当たらない

2012年4月、前例のない「リンク」をめぐる名誉毀損裁判のゆくえに注目の集まる中での控訴審判決。 東京高裁は一審を大きく覆し、原告の請求を認める判決を出したのです。


裁判所がリンクの違法性を認める

ハイパーリンクは「記事への取り込み」

二審で東京高裁は、

「ハイパーリンクが設定表示されている本件各記事(問題の書き込み)を見る者がハイパーリンク先の記事を見る可能性があることは容易に想像できる」
「本件各記事を書き込んだ者は、意図的に本件記事3(リンク先の、具体的なセクハラの内容が書かれている書き込み)に移行できるようにハイパーリンクを設定表示しているのであるから、 本件記事3を本件各記事に取り込んでいると認めることができる」

と、URLを書き込むことは、リンク先の具体的なセクハラの内容を書き込んだり、コピーアンドペーストするのと同様、 自分の意見の一部に「取り込む」であるとの見方を示しました。

その結果、判決では、「セクハラを行ったかのような内容の事実を摘示したものであり、 控訴人(編注: 原告男性)の社会的評価を低下させるものと認められる」と、リンクによる名誉毀損が立証されました。

書き込んだ人物にも法的措置を行う

控訴審の後この原告男性は、書き込みをした人が特定され次第、さらに法的措置を行うつもりであると表明しました。

これまで一般的に、リンクを貼るだけでは「情報」「事実」の流布とは捉えづらい側面があり、法的評価がなされずにいました。 しかし今後は、インターネット掲示板におけるリンクもその文脈、ともに記載された文章、 リンク先の悪質性などによっては、削除対象となったり、名誉毀損が成立したりする可能性が高そうです。

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