参院選候補者(藤井厳喜氏)を誹謗中傷した北大生に懲役判決
■裁判の種類・・・刑事裁判
■誹謗中傷の被害者・・・選挙に立候補した大学教授、藤井厳喜氏
■誹謗中傷の加害者(被告)・・・北海道大の学生
■裁判の種類・・・刑事裁判
■判決・・・・有罪=懲役1年6カ月(執行猶予3年)
■罪名・・・・名誉毀損罪(刑法230条)
■捜査機関・・・警視庁小岩署
事件の概要
2010年7月、参院選比例代表に新党「たちあがれ日本」から立候補し落選した拓殖大学客員教授の藤井厳喜(ふじい・げんき)氏に対し、
2ちゃんねる(2ch)掲示板において誹謗中傷する書き込みをしたとして、大学4年生が名誉毀損の容疑で逮捕されました。
警視庁小岩署の取り調べに対し「思想が右翼的で気にくわなかった」などと供述した学生は、4月20~21日の2日間で、
同掲示板の7つのスレッドに計33回にわたって「死ね」など同氏を誹謗中傷する書き込みをしていたものです。
事件は、藤井氏が友人から書き込みについて知らされ、直接警察に相談、告訴したことから始まりました。男子学生と氏は面識も接点もなかったといいます。
裁判の経緯
ネットに夢中でまわり見えず
10月22日の判決公判には、被告人の学生とその父親が出廷しました。
「自分の部屋でノートパソコンから書き込んだ」との供述を受け、父親は弁護側の証人として出廷。
男子学生の生活態度やネット環境について尋ねる検察官に対して「ネットに夢中になって、授業に参加しなかったと聞いています」などと返答しました。
一方、被告人席に立った男子学生には、裁判官から「学業以前に人間として、どう考えていくかだよね」など、厳しい言葉が投げかけられました。
低レベルな悪口でも名誉毀損に
では、実際に2chに書き込まれた誹謗中傷の内容とは、どんなものだったのでしょうか。
「藤井は犯罪者。死ね」の書き込みについては、近年サイバー警察の取り締まり対象の大部分を占める殺人予告、脅迫罪に値するものといえそうです。
しかし、それ以外の書き込みのほとんどは、稚拙で低俗な、公衆トイレのいたずら書き並みの罵詈雑言でした。
▼2ch掲示板への書き込みの一部▼
ああああは売春婦の倅。3匹の娘はDQNビッチ性病持ち。妻はキチガイ精神病者。
いいいいのバカ親父は変態幼児性愛者。藤井厳喜の先祖は河原者。
(以下省略)
あまりにも低レベルな悪口に、どう転んでも男子学生の擁護はしがたいといえます。
しかし、時は参院選挙というタイミングであり、「この候補者の考え方は自分には合わないな」という意思表明が誤った方向に暴走しただけ、というのもまた真実でした。
大学教授で、かつ選挙に立候補中といういわば「公人」への批判が、原告の訴えにより「名誉毀損」へと発展したこの事件。
2ちゃんねらーたちの間では「言論統制にあたるのでは?」といった声も上がりましたが、後々まで「書き込みで捕まるとこうなる」と語り継がれるモデルケースとなりました。
判決は有罪(懲役)
執行猶予刑に
被告が学生のため、民事での賠償金請求には至らなかったようですが、人生まだこれからの弱冠23歳の青年に刑事罰として「名誉棄損罪」が成立。 判決公判では、懲役1年6カ月(執行猶予3年)が言い渡されたのです。
実名が大々的に報じられる
さらにメディアは連日、原告の藤井厳喜氏の肩書や知名度に相乗するかのように、被告学生の実名を容赦なく報じました。
すでに成人しているため、実名報道は原則といえますが、前途ある学生の場合には一定の配慮がなされ、実名が伏せられることが多いのです。
しかしこの事件では、被告学生の実名、大学・学部名までが大々的に公表されました。
ネット社会における実名報道は、その後、加害者を終わりなき誹謗中傷の被害者へと変える危険性をはらんでいます。
現に、執行猶予の3年を終えた今もGoogle検索では、男子学生の名前を含む15万を超えるページが存在しつづけているのです。