ドール部品メーカー誹謗中傷事件

人気のドールの目玉やウィッグを扱う業者が、相次ぐ自社サイトへの嫌がらせや、2ちゃんねる(2ch)等での書き込みに対し、 ネット掲示板およびプロバイダー(インターネット接続業者)に複数の発信者情報を求めて提訴。 明らかとなった4人の発信者に対して、民事裁判を繰り広げた事件です。

事件の概要

メールで、ネット上で、中傷被害

2009年12月~2010年7月頃にかけて、ドール部品の製作会社では、約150通の嫌がらせメールや販売サイトへの虚偽注文などの被害が続きました。

それと同時に、巨大匿名掲示板である2chには製作会社の専用スレッドが立ち、事実無根の内容がでっち上げられ、同社を誹謗中傷する投稿が相次ぎます。 さらに関連サイトにはその中傷内容に紐づいた画像などが張り付けられ、ネット上に拡散していきました。

これらの被害に対し、2010年2月、製作会社は書き込みのうち事実ではない事柄に対しての説明と、書き込んだ人物への呼びかけを行いました。 しかしそれも虚しく、ネット中傷は過熱の一途をたどったため、警察に被害届を提出。告訴、提訴に向けて動き出します。


投稿者の特定へと動く

自社サイトへの虚偽の注文と大量の嫌がらせメールは、その発信者番号により、すべて同一人物からのものであることが判明しました。 まもなく、送信者本人から謝罪のメールが届きますが、後にそのメール送信者が、ネット上に製作会社中傷に関連する画像を投稿した人物とも一致することがわかったため、製作会社は弁護士を立てて裁判を起こします。

投稿者特定への第1ステップは、掲示板等の運営者にIPアドレスを開示してもらうことです。 2010年6月15日、東京地裁より画像掲示板の管理者への仮処分が下され、そこで開示されたIPアドレスにもとづき、経由プロバイダーが特定されました。 そのうえで、製作会社は、プロバイダーであるNECビッグローブに対して発信者情報(氏名、住所)を求める開示請求裁判を起こしました。

一審は敗訴

書き込み犯の一人は同業者

2ch掲示板における複数の名誉毀損案件についても、同様に2ch管理人、プロバイダー3社(ソネットエンタテインメント、ケイ・オプティコム、三洋ITソリューションズ)への開示請求の手順を踏んで、 2011年10月までに、最初に大量メールを送った人物を含む4人の投稿者が特定されました。

4人のうち3人は、お客でもなく面識もない人物でしたが、2chへの書き込みを行った中の1人は同じドール業界の顔見知りの経営者(以下S)でした。 製作会社は、すべての投稿者に対して提訴し、誠意ある謝罪を求めて口頭弁論を重ねました。

最終的には2人は和解に至り、2人は提訴を取り下げで終決します。


一審判決は「請求棄却」

本稿では、2chで中傷した同業者Sを相手どった裁判(2011年12月提訴、東京地裁)についての経緯を見ていきます。

Sは掲示板への書き込みの事実は認めるものの、原告側の「被告の行為が当方への誹謗中傷にあたる」との主張に対して、 「他の書き込みをしている人物に対するものだった」と返し、かみ合わないまま最終弁論を迎えました。

裁判官の判断は、原告の請求棄却。製作会社は誹謗中傷の事実を受け入れられなかったことを不服とし、東京高裁に控訴することにします。

「真摯な謝罪」で和解

原告が望んだ結論は「和解」だった

そして2012年11月の控訴審では、一審と同様に自らの行為が名誉毀損に当たらないと主張をつづけるSに対して、東京高裁が異例の和解勧告を発令。 「被控訴人(S)は、控訴人(製作会社)に対し、本件記事の発信によって控訴人に迷惑をかけた行為について真摯に謝罪する。」と記載された調書に双方がサインし、 約1年にわたった名誉毀損裁判が終幕しました。

ネット中傷と闘う人の道しるべに

本件において原告製作会社は、はじめから名誉毀損による損害賠償などの法的勝利を目的とはせず、和解と相手の誠意ある対応(謝罪)を求めていました。

多くの時間を費やした裁判の代償として、実質的に得られたものは多くありませんでしたが、 ネット上における誹謗中傷被害に苦しむ人々が泣き寝入りすることなく、前に進んでいくための道しるべとなった事件です。

2ch(2ちゃんねる)の誹謗中傷裁判一覧まとめ