人材派遣会社の発信者情報開示請求訴訟

事件の概要

2002年4月、労働者派遣会社の羽田タートルサービス(本社・東京)が、2ちゃんねる(2ch)掲示板で同社の労働条件などを非難した人物について、 WEBサイトにサーバーを提供したレンタルサーバー会社と、発信者が利用したアクセスプロバイダーを相手どり、発信者情報の開示を求めて起こした訴訟です。

この裁判に関連して、同社代理人の弁護士が2ch上で誹謗中傷されたため、弁護士自身が原告となってふたたび発信者開示を請求する訴訟へと発展します。

連続する二つの事件では、はじめレンタルサーバーのみだった情報開示が、弁護士中傷事件ではプロバイダーへの開示請求までもが認められ、 書き込みを中継するだけの接続業者もその責任の一端を担うことが明らかにされました。


裁判の経緯

第一事件・労働条件非難事件

羽田タートルサービスの名を含むスレッド上で、同社が労働者を低賃金で酷使しながら給料を踏み倒し、儲けて豪華なビルを建てているなどといった書き込みがあったことに対して、 同社はレンタルサーバー会社の「ゼロ」とプロバイダー会社の「So-net(ソネット)」に発信者を特定する情報の開示を求めました。

結果、「特定電気通信役務提供者」としてレンタルサーバー会社への開示請求は認められましたが、経由プロバイダーは個人との契約に基づいており、 いわゆる関係役務提供者には当たらないとの見解が示され、「安易な拡張解釈は許されない」とプロバイダー会社への請求は棄却されてしまいます。

同社は判決を不服としながらも、引き続き責任追及する姿勢を崩さず、2ちゃんねる(管理人)を相手どった裁判へと転じました。


第二事件・代理人事件

事件の後、問題の「最悪のアルバイト派遣羽田タートルサービス」と題された掲示板に、次は同社代理人である顧問弁護士(久保健一郎氏)を中傷する複数の書き込みが発見されました。

▼書き込みの内容▼

卑怯

あんたそろそろ自分自身にも弁護士をつけたほうがいいんじゃない?

DQN

弁護士本人が原告となり掲示板運営者に発信者情報の開示を求めたところ、インターネットサービス「PRIN」を経由したとの回答を得たため、同サービスを運営する「DDIポケット」を相手どりふたたび提訴に出たのです。

ちなみに「DQN」は「どきゅん」と読み、「常識の欠けた」「低能」といった中傷の意味をもつ2ちゃんねる用語。 その後2007年2月に発表された「プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドライン」に、名誉毀損、プライバシー侵害の用語例として盛り込まれています。


判決

プロバイダーに初の情報開示請求

第一法廷ではプロバイダー会社への開示請求は棄却されましたが、弁護士が原告となった第二の法廷では、開示対象に中継プロバイダーも含まれるとし、 DDIポケットへの開示請求が認められました。

2003年9月17日の判決公判で東京地裁は「課金のために発信者の住所氏名を把握している中継プロバイダーを対象から外せば、被害救済の道を閉ざすことになりかねない」との主旨で、 プロバイダー会社に対し、請求のあった11件の書き込みのうち9件の発信者情報の開示を命じました。

これは、本事件に先駆けて成立したプロバイダー責任法の「特定電気通信役務提供者」にアクセスプロバイダーも含まれるということを初めて明確にした判例となりました。

ネット上は無法地帯

当初認められなかった請求を、弁護士自身が代理人となりふたたび訴えたことで実質的に逆転判決を得たプロバイダー情報開示裁裁判。

久保弁護士は判決後、「発信者が割り出せず悔しい思いをしてきた被害者を救済する道が開けた。ネット上は無法地帯。判決が秩序作りのきっかけになることを期待している」とコメントしています。

その後、発信者に対して名誉棄損罪を問う刑事告訴が行われたかは不明ですが、悪質な書き込みをすれば必ず身元が割り出されるということを、世の匿名発信者たちに広く知らしめることになった裁判です。

2ch(2ちゃんねる)の誹謗中傷裁判一覧まとめ