“ひろゆき”VS“切込隊長”裁判

ハンドルネーム「切込隊長」こと山本一郎氏(東京都の会社役員/ブロガー/投資家)が原告となり、 2ちゃんねる(2ch)管理人・西村博之氏を被告として、名誉毀損などを理由に損害賠償等を求めた裁判。 欠席裁判で有名な西村氏がめずらしく口頭弁論にその姿を表し、かつての“盟友”の訴えに応戦した、いわば身内間の訴訟として話題となりました。


事件の概要

2ちゃんねる関係者同士の内輪訴訟?

原告の山本氏はかつて西村氏と親交があり、2ch副管理人とも囁かれていました。経営に対する考え方の違いから決別した2人。 皮肉なことに、数年ぶりに顔を合わせたのは法廷の上でした。

山本氏の訴えは、2chの「投資一般」板で、誰もが閲覧可能な状態のなか、匿名の書き込みにより誹謗中傷されたとして、書き込みの削除と損害賠償を求めるもの。 それまでにも仮処分の申し立てを行ってきたが、西村氏は呼び出しを無視し、書き込み削除などにも応じなかったため本訴に至ったといいます。


裁判の経緯

書き込みの削除をめぐって衝突

東京地裁での初公判は2007年1月29日。原告の山本氏は代理人弁護士を立て、西村氏は代理人なしでのぞみます。 同日の第1回口頭弁論にはめずらしく西村氏も出廷し、以降全7回にわたる口頭弁論が行われました。

訴状によると、原告の山本氏は名誉毀損にあたる書き込みの削除と200万円の損害賠償を要請し、そのうえで、 今後「山本一郎」や「切込隊長」などのスレッドを立てないようにすることを求めています。

それに対して西村氏は、(1)訴状の郵便が届くまで書き込みの内容を知らず、権利侵害を知り得なかった、 (2)訴状が届いた後は、一連の書き込みを削除した──などの理由で、一切認めませんでした。


かつての“盟友”が直接対決

裁判に出ないことで有名な西村氏も第1回、第5回と2度出廷しており、 ちょうど「ドメイン差し押さえ」「2ちゃんねる閉鎖」などの報道が盛んに行われていた背景と何か関係があるのではと、さまざまな憶測が飛び交いました。

そして2007年9月3日。第5回の口頭弁論で、ついに因縁の直接対決の時を迎えます。

1度きりの直接弁論で、そろって証言台に立った西村氏、山本氏による論争は、訴状にある名誉毀損の件にとどまらず、 過去の金銭のやりとり、2ちゃんねるの誹謗中傷対策にまで及びます。かつて“盟友”とされた2人の認識の違いを互いに示す格好となりました。

誹謗中傷をめぐる応酬

西村氏は、各板の書き込み削除の方針について「僕が決めている」と言い、基準については「面白いかどうか」であり「誹謗中傷かどうかは別問題」と述べています。

さらに追加の尋問として、山本氏が自身のブログのなかで西村氏について「禿げ」などと書いたことについて追求しました。

それに対して山本氏は書いたことは認めるものの、代理人弁護士が「その書き込みが名誉毀損かどうかを原告に聞くことについて、それは意見になる。 今回の訴訟では、(山本氏に対して「禿げ」と書かれている部分は)含めていない」と切り返しています。


判決で「名誉毀損」認める

名誉毀損認めるも、スレッド立ては容認

2008年2月18日、判決。 山﨑勉裁判長が読み上げた主文は、(1)西村氏は山本氏に80万円の損害賠償を支払え、(2)書き込みの一部を削除せよ、 (3)その他の請求は棄却、(4)訴訟費用は、5分の2が西村氏、5分の3が山本氏、(5)損害賠償については仮執行ができる── というもので、書き込み内容について、ほぼ名誉毀損を認めるものでした。

一方で、山本氏関連のスレッド立て禁止に関しては、「山本一郎は全国に何人もいる。切込隊長は野球界にもいる」との西村氏の反論がおおむね認められ、原告の要求は棄却されました。

しかし西村氏は、判決を「全部に不服」とし、控訴に出ます。

控訴審は非公開で

控訴審は2008年5月22日、東京高裁(大谷禎男裁判長)での第1回口頭弁論に始まりました。ともに本人は出廷せず、代理人同士が書類をとり交わす形で進みました。

控訴状によると、(1)1審判決の中で、西村氏の敗訴部分を取り消す、(2)山本氏の請求を棄却する、(3)訴訟費用は、1審、2審を通じて、山本氏の負担とする――などが西村氏の訴えです。

西村氏側は、山本氏のブログに「禿げ」「よわい30にしていかがなるものか」など、外見を中傷する書き込みをされたとして、反訴状を提出する用意を示しました。 山本氏側はそれに対する回答を留保し、一方で、書き込み内容の追加削除と損害賠償額の減額(200万円→110万円)を求める付帯控訴および訴えの変更を行いました。

議論尽きない両者の様子に、大谷裁判長は「細かいやりとりが多くなるだろう」として、次回以降は非公開での弁論準備とすることを決定します。

それから年を跨いだ2009年2月12日、東京高裁が下した判決は、1審判決を支持して西村氏の控訴を棄却。 西村氏の反訴については山本氏による名誉毀損を認め、山本氏に慰謝料など11万円を支払うよう命じるものでした。

2ch(2ちゃんねる)の誹謗中傷裁判一覧まとめ(WEB広報)